#4 あなたがビッグになってゆくところを見ていたい(もえた/シンガーソングライター)

2023/10/22

写真企画 さみしくない点


 写真企画 さみしくない点

「さみしくない点」は、インターネットの深海に溺れながらひとりで音楽を作るわたしが、あなたに会って写真を撮る企画です。

https://m-k-r-d-t-s-b.blogspot.com/2021/12/blog-post.html

シンガーソングライター・もえたさんとの邂逅

2023年が始まってからというもの、かなり長い期間、『涙の国』という曲のカセットテープの制作に勤しんだり、勤しむのをやめたりしていた。何回採寸して何回印刷してもサイズが合わなくて落ち込んだり、急に「こうすればいいんじゃ!?」と思いついてまた作ってみたり、を繰り返し、9月某日、ようやく完成させた涙の国カセットテープを、カセットテープを大量に譲って下さったつしまさんにお渡しするために、久々にBUMS(※年明けにわたしが展示をやらせていただいた古着屋さん兼コミュニティスペース兼店長のおぐらさんがどんどんおもしろいことをやられている)へ向かっていた。BUMSに着くと、店内にはおぐらさんとつしまさん、そして初めてお会いする女性の方がいた。おぐらさんは「今週末のウィークエンドミュージックキャンプ(※BUMSで月末に開催されている音楽イベント)で、彼女がライブをしてくれるんですよ」とご紹介してくれた。


彼女は、もえたさん、シンガーソングライター。アコギで弾き語りをされるひと。「どうもどうも」とご挨拶をして、名刺を渡させていただいて、「わたし近所なのでライブも見に来ますね」と会話をした。その日か次の日くらいに、わたしの暗いSNSもフォローしてくださって、ひょっとして名刺を渡す=フォローしろという威圧行為になってしまったのだろうか?と一抹の申し訳なさを抱え、ドキドキしながらフォローバックさせていただいた。


わたしの写真のご挨拶はたいていいつも後ろ姿


数日後、ライブを見に行った。なんというか、泣きそうになってしまった。佇まいがうつくしいひとだと思った。時折髪から覗くイヤリング、インスタライブ配信用のiPhoneを見上げて歌う横顔や、目を伏せる仕草がきれいだった。そして、BUMSで過ごした時間を曲にされたというエピソードのMCから始まった『言葉で満たす』という曲の中盤にある、“広角レンズでしか映らないような箱を涙で満たす”というフレーズに、ドカンと撃ち抜かれてしまった。


その瞬間、「よーし、わたしは、次にこのひとを撮るぞ」と決めたのだった。

♡☆ウチら両思い☆♡

インスタグラムで、もえたさん狙い(+万が一他の方からもご連絡が来たらラッキー)の「フィルムカメラで写真を撮らせてくださる方を探しています」というクソ長文の投稿をしたら、その日のうちにもえたさんの方から(!)「ぜひ撮ってください!」という趣旨のDMをいただいた。ウチら、両思いぢゃん、運命かよ!「わたしも実はまずもえたさんに連絡しようと思っていました!」とお返事をした。早速、撮影日と場所を決める。もえたさんが先日のライブで『渋谷乗り換え』という曲を歌われていた所以で、「渋谷から代々木公園あたりはどうですか?」と提案、即採用していただく。


撮影まで3週間弱くらいあった。サンプルとして、これまで撮らせていただいた方のさみしくない点3人分のリンクを送り、「こんな感じに仕上がります」「でも、全部読まなくても大丈夫です」という旨をお伝えした。前述の名刺威圧疑惑の経験を経て、だれのことも(特に自分より若いひと)威圧しない・萎縮させない・なにかを強要しないことを改めて胸に誓った。このちっぽけな企画は、撮らせてくださる方のご好意100%で成り立っている。


『渋谷乗り換え』

渋谷。波動の合わない街。渋谷駅は新宿駅以上に出たいところから出られない。今は工事もしているのでより難易度が上がっている。街がわたしを受け入れていないと感じる。わたしは極度の方向音痴のため、もえたさんとの待ち合わせ時間の30分前に渋谷に着いた。が、あっさり迷った。けれど、迷ったおかげで『渋谷乗り換え』の聖地っぽいところの写真が撮れた。


ところで聖地じゃなかったらかなりごめんなさいだよ…

ハチ公口をうろうろふらふらぐるぐるしているうちに、もえたさんと合流できた。「わー!」「わー!」「よろしくお願いしますー!」「よろしくお願いしますー!」とご挨拶をして、わたしたち、ちいかわみたい、と思った。「おなか空いてます?」「朝ごはん食べてなくて」「あああ、わたしもです、じゃあ、ちょっと先にカフェ入っちゃってもいいですかね」「そうしましょう」というようなやりとりをし、撮影に入る前に作業も許してくれそうなカフェでごはんを食べつつ、お話も聞いてしまうことにした。朝10時に開いていて、ある程度の長居も許してもらえそうなカフェを探す。もちろん、もえたさんにも探させる。わたしは誰にでも道やお店やあらゆるものを探させる。そして、「人間関係」というイカした名前のカフェを見つけ、モーニングでサンドイッチを食べた。


カフェを探してくださるもえたさん マジ感謝

もえたさんはTシャツをあんまり着ない

わたしたちは向かい合わせの二人席に座っていた。わたしは、この、〈向かい合せの二人席〉という空間に来ると緊張してしまうところがあって、「なんか、毎回『いろいろ聞きたい』と思って来るんですけど、何から聞いたらいいのかわからなくなっちゃうんですよね」と言うと、もえたさんはニコニコしながら「じゃあわたしからいろいろ聞いちゃおっかな〜!」と言ってくれた。緊張が少しほぐれる。ありがてえ。


「お洋服もお化粧もいつもの感じで大丈夫です」と事前にお伝えしていたのだが、ライブのときのお衣装を着てきてくれた。深いネイビーというのか、青みがかったブラックというか、の、丈が長めのワンピースで、よく似合っている。アクセサリーとの組み合わせも良い。ギターも映える。わたしはいつもの変なTシャツを着ていて、それをもえたさんが褒めてくださって、「Tシャツ着ます?」というようなことを聞いたら、「あんまり着ないんですよね」と返ってきた。


「この前BUMSで買ったのが2枚目のTシャツです」
「えっ、2枚目!?夏にTシャツ着ないひとって何着るんですか!?」
「ウエストインすることが多くて、オフィスにも着ていけるようなリブのトップスみたいなのとか」
「なるほど…ちなみに1枚目のTシャツはどんなのですか?」
「くじらが4匹いるやつで…ヘリーハンセンのやつなんですけど」
「いいですね!くじらが4匹」
「涼しげだと思って」


こちら、Tシャツなんかなんぼあってもええですからね派、2枚というのは衝撃だった。しかし、わたしはくじら4匹Tシャツは持っていない。4匹Tシャツどころか1匹Tシャツもない。しかもヘリーハンセン。うらやましい。


そして、このTシャツエピソードのおかげでわたしのあたまのエンジンがゆっくりとかかり、割とリラックスできている状態で、ポロポロと思い出した順にお話を聞くことができた。




シンガーソングライターになるまで

もえたさん、小学5年生。榮倉奈々主演の朝ドラを見て「ダンスやりたい!」と思われたものの、雰囲気的に新体操が気に入って、6年生までは新体操をやられていたそう。しかし、小学校までのクラスしかなく、中学校では吹奏楽部に入部。


「なんのパートだったんですか?」
「クラリネットです」
「わ、花形ですね!」
「そうなんです」
「楽譜読めますよね」
「読めます!ピアノもやってたことあって」


もえたさんは、ライブのMCで「音楽理論がわからない」とお話されていた。わたしもずっとわからない。メジャースケール、マイナースケール、ペンタトニック、ハーモニック、何度に何度を足すとなんとか、何度に何度を足すとなんとか、かんとか、などなど、みたいなやつがたくさんあって、そういうルールをわかっているひとがいる、ということしかわからない。しかし、吹奏楽部に入っていて、クラリネットとピアノの経験があって、楽譜が読めるということは、実は“わかる”ひと側なのでは…?と怯んだが、もえたさんは「脳みそを通して吹いたり弾いたりしていたわけじゃないからわからないんですよね」と言った。わたしにも、”脳みそを通す・通さない”、”脳みそを通ってる・通ってない”、というような感覚があって、この瞬間、一気に同じ言語を使って話しているきもちになれた。


「理論を知るためにYouTubeで3時間くらいある動画を見て、2割理解って感じです」
「わかります…わからないですよね…」
「すごいひとが『理論わかってません』って言ってくれると勇気が出ます」
「あああ、それもすごいわかります…」


高校でも吹奏楽部に入るつもりだったものの、週5〜6日稼働のガチ吹奏楽部で、雰囲気もちょっと合わないかも…と思っていたら、週3日稼働のダンス部を発見し、ダンス部へ。


「大学でもダンスをやっていて、ポッピンダンスっていうジャンルで」
「『ポッピンダンス』…」
「基本ビートに合わせて踊るんですけど、ステージから客席が遠かったり、外で踊ったりするときだと、お客さんの耳に音が届くまでタイムラグが生まれるので、遅めに音を取って踊る必要があって。 そういうときはみんなで1テンポ遅く踊る練習してました」
「『遅めに音を取って踊る』…」


ダンスとは程遠い世界で生きているわたし、ただただ鸚鵡返しをしてメモを取る。これを書きながら「ポッピンダンス」とググり、YouTubeで動画をいくつか拝見した。「筋肉を弾くダンス」という解説をされている方がいて、わかったような、わからないようなところにいる。ダンスの世界もジャンルやスタイルが細かく分かれていることを知った。どこもかしこもすごい世界だ。



お兄ちゃんのギター

話は弾み、もえたさん、大学4年生。美波の『カワキヲアメク』という曲を弾きたくて、趣味でギターを始められる。


「お兄ちゃんがギター弾いてて、YUIとかすきだったんですよね」
「YUI!いいですよね」
「実家にお兄ちゃんが住んでいるときはギターがうるさくて嫌だったんですよ、アコギだし、わりとガッツリ鳴らす感じで弾いてて」
「アコギって音大きいですもんね」


お兄さんは音楽の専門学校へ進学されるも、サクッと諦めて、今は普通に働かれていて、趣味でDTMはしているかもしれない、でも別々に暮らしていてあんまり会わないのでよく知らないんですよね、とのことだった。わたしは、勝手に「お兄さん、DTMしていてほしいなあ」と思った。


「それで、お兄ちゃんの弾いていないギターがあって、『弾いてないならちょうだいよ!』っておねだりして、もらっちゃいました」
「わ、めっちゃいいエピソード!」
「でも曲は難しくてなかなか弾けなくて」


ギターだって絶対に弾かれたほうがいいから、ギターがだれかからだれかの手に渡って、また弾かれてゆく話を聞くのはすごくすきだ。


「ちなみに、もえたさんの、シンガーソングライターとしてのルーツ、というか、このアーティストがすき!ってありますか?」
「阿部真央ですね!中高は阿部真央で過ごしました。あと、阿部真央を聞いたときに、『お兄ちゃんのあれじゃん!』ってなったので、もしかしたらお兄ちゃんが阿部真央を流していてすきになったのかもしれないです」
「おおお!すごい伏線!」


わたしは多少映画を見過ぎていて、全部伏線であれ!と思ってしまうところがあり、わたしがもえたさんの半生を映画にするなら、絶対にあのころのもえたさんのお兄さんは爆音で流す阿部真央に合わせてアコギを弾き、もえたさんは知らないうちにそれを聞いていたことにするだろう。


ギターケースもめっちゃかわいい

「今もお兄ちゃんからもらったアコギを使ってるんですけど、エレアコなのにエレアコと気づかず使っていて、新しくエレアコ買おうとしてたんですよ。初めてライブしたときは気づいていなかったので、マイク立ててやったんですけど」
「スタッフさんからは“あえて立ててる”と思われたかもしれないですね」
「ただ、3回目のライブのときに、見にきてくれていた友だちから『エレアコだよ〜』って教えてもらって、そこで『エレアコなんだ!』って気づきました」
「わあ、買う前に気づいて良かった!」
「その後のライブでエレアコとして使ったら、ちょっと調子が悪くてノイズが乗っていたみたいなんですけど、PAさんがMCごとにノイズをカットしてくれてたらしくて」
「めっちゃやさしいPAさん…!」


BUMSでのインストアライブの後に、東中野のライブハウスもとい、ライブバーという表現がより良いのだろうか、へ、もえたさんのライブを見に行ったのだが、ライブ後にもえたさんが店長さんを紹介してくださり、店長さんがめちゃくちゃやさしいひとだった。受付のスタッフさんも、「煙草吸えるところってありますか?」と聞いたときに対応してくれたスタッフさんも、みなさんやさしいひとだった。わたしも次にライブをすることがあればここでできたらいいなあと思っている。できればやさしくされたいもんね…


「ちなみに、ギター始めてしばらく経つと思うんですけど『カワキヲアメク』は弾けるようには…?」
「弾けるようになりました!」
「すごい!よかった!(拍手)」





制作の話

「曲ってどういうふうに作られてます?」
「コード進行から作って、そのコードに合わせて、歌メロつけて、後から歌詞をつけるパターンと、脳内で歌詞と歌メロが出てきたときはそれに合わせてコードを拾う、の2パターンありますね」
「ふむふむ…」


そして、ここで、勇気を出してわたしはもえたさんの『言葉で満たす』の例のフレーズにグッときたことを伝えた。


「この前、BUMSで聞いた『言葉で満たす』の“広角レンズでしか映らないような箱を涙で満たす”のところがかなりグッときました」
「わー!うれしい!ありがとうございます!実は、ラッパーのSOくんからも全く同じところを褒めてもらって」
「ええ!すごい!やっぱり!」




BUMSでライブをしたことがあるひとには共通してあった/ある感覚なのかもしれない。こじんまりとしたスペースでライブをするため、スマホのインカメに広角レンズをペコッと付けて、入り口近くの棚の上のほうに設置されているホルダーにエイッとはめて、配信をスタートさせる(※たいてい)。その一連の、なんでもない動作を、うつくしい歌詞、うつくしいメロディにできるのかと思った。できるならわたしが思いついて作ったことにしたい。


「もえたさんは歌詞は読むひとですか?…なんかあの、『歌詞なんてなんでもいい』派のひとっているじゃないですか、なんだろう、『曲が良ければ歌詞なんて』みたいなひと、」
「いますね!うーん、でも、曲がすきっていう曲もありますけど、歌詞も読みます」
「良かった!仲間です!」


これを書いているわたし、「良かった!仲間です!」じゃないよね、もしもえたさんが曲が良ければ歌詞なんていらない派だったらどうしていたんだろうというくらい、質問の仕方に偏りがあったことを反省している。もしかしたら気を遣ってくれたのかもしれない、本当のことを言えないような空気にしてしまったかもしれない、威圧していなかっただろうか、と、またくだらない逡巡をしているが、もえたさんの書く歌詞はかなり良いので、歌詞なんてなんでもいい派ではない。と、祈っている。


「ご自身の曲の歌詞は実体験がメインですか?」
「ほぼ実体験ですね…前はひとに聞かせようと思って作っていたわけじゃなくて、友だちとかには『病んだときの副産物』って言ってて」
「『病んだときの副産物』…?」
「病んだときのストレス解消方法として、”食べる”とか”喋る”とかあるけど、わたしの場合は”作る”だったんですよね」
「あああ、なるほど」
「99%明るく生きているんですけど、1%の闇の部分で作ってました。曲が作れないときは人生うまくいっているときで。でも最近は人生うまくいっているけど曲作れるようになってきました!」
「それはかなり良いですね!なんだろう…”病んじゃって作る”はアリだと思いますけど、”作るために病む”のは本末転倒だと思うので」


←左端にもえたさんトレードマークの青いギターケースが見切れています
写真的には立ってもらうポジションをミスったと思いますがこのギターケース、色味も素材感もほんとうにかわいい。しかもお友だちがプレゼントしてくださったらしい。愛。


今後の展望①〜シンガーソングライターの難しさ

弾き語りというスタイルで、例えばライブの持ち時間30分、例えばEPやアルバムを通しての5曲〜10曲という膨大な単位で、お客さんやリスナーを飽きさせず聞いてもらい続ける、という難題からわたしは即座に逃げてしまったので、もえたさんはどう対峙しているのかが知りたかった。


恐る恐る「難しくないですか?」と聞いたら、もえたさんは第一声、「難しいですよー!!」と言ってくれた。安心した。安心してしまった。申し訳ない。


「ライブのセットリストもかなり悩みます。曲調が違うのを織り交ぜたり、模索しているところですね」
「難しいですよね」
「前に共演した男の子が、ギター弾かずにアカペラでいきなり始まって、すごいかっこよくて。ライブの始まりもかなり模索しています。あとは、MC中にギター弾いてそのまま曲に傾れ込みたいな、とか、MCはあまり決めすぎずにゆるく行こうかな、とか」
「うんうん、わたしも、MCはゆるくというか、親近感のある感じでMCしてくれるとなんかホッとします」


靴下の深い赤の差し色もイケてる!

今後の展望②〜バズりの奇跡とバンドの話

「もえたさんとしては、今後も引き続き、ライブもがんばりつつ、SNSもがんばりつつ、みたいな感じですかね?」
「そうですね、漠然とビッグになりたいってずっと思ってます」
「あー、わかるー!わたしも漠然と売れたいってずっと思ってます」
「みのりさんが写真を撮るとき『奇跡起きますように』って言ってたのと同じで、わたしもバズりの奇跡待ちしてます。TikTokでSHISHAMOのカバーをあげたんですけど、他のより伸びて。でも別にいつもと同じ感じなんですよね。わたしなりに伸びた原因を考えた結果、その動画をカラオケボックスで撮ってて、『カラオケボックスの壁紙が派手だから伸びたんじゃないか?』ってなりました」
「えええ!どうなんだろう、そんなことない気もするし、いやー、でもバズる・バズらないって、ずっとわかんないですよね」


そして、大学飲酒喫煙時折パチンコ軽音部バンド畑出身のわたしは、ひとつの疑問が湧く。シンガーソングライターはバンドセットで演奏をすることがある。


「バンド組みたい、みたいなきもちはあんまりないんですか?」
「やってみたいきもちはあります!でも誘うのって難しいじゃないですか」
「難しいです、すごく難しい」
「友だちから『こだわり強いからどうせ方向性の違いで解散するからやめとけ』って言われたこともあって」
「確かにそれはわたしにも思い当たる節があります」
「この前のBums Fiction(※前述のBUMSおぐらさんを中心に組まれた音楽ユニット)は、個々のスキルが高かったから、多分数回の練習でいけたんだと思うんです」
「それはそう!」
「わたしは絶対たくさん練習したい」
「わたしも絶対たくさん練習したいですね」





その後、メンバーを募る難易度・スケジュールを合わせる難易度・機材やスタジオやライブにかかる費用対効果などについて会話し、「わたしたちはお互いまずはソロで売れて、すべてのお金を自分のものにしましょう」という、現時点での一つの結論に辿り着いた。


今後の展望③〜「踊りながら歌いたい!」

「あと、わたしダンスをやっていたので、歌で感情を出すようになって、ダンスでも感情出せるなと思って、踊りながら歌いたいんですよね」


「踊りながら歌いたい」と聞いて、真っ先にわたしの脳裏には映画『帝一の國』で永野芽郁が赤いストラトキャスターを抱えながら、クリープハイプの曲に合わせて可憐に踊っていたエンドロールが蘇った。が、きっとこれじゃない。



「それは…かなりチャレンジングですね!」
「前に路上ライブをやったことがあって、マイクは準備していったんですけど、踊りながら歌いたい!と思って、途中でマイクで歌うのやめて、踊りながら歌ったんですよ」
「すご!もうやってるじゃないですか!」
「でも、わたし声があんまり通らないから、聞こえていないかも!やめたい!最悪!って思ったんですけど、やり切りました」


度胸がありすぎてすごい。あっさり圧倒されて「そしたらやっぱインカム型のこういうマイク買って、きっと、ギターも線が絡まるから、ギターもBluetoothのシールドみたいなの買って…」などとくだらない提案をし出してしまったが、ハッと思いつき「MV!MVとかならすぐ実現できそうですね!」と言った。


「歌とギターはレコーディングしておいて、踊りながら歌う映像撮って」
「いいですね、MVも作りたいし、生でもやりたいです!」


生・生・生…のイメージが明確に浮かばず、うーんうーんと考え込んでいたら、もえたさんは、あるアーティストの曲のMVを挙げて「こういうのを生でもやりたいし、映像でもやりたいんですよね」と教えてくれた。その日の夜、YouTubeで拝見した。なるほど、こういうことかあ、と胸落ちする。同じ規模感では難しい問題もたくさんありそうだけれど、うっすらと「やれるのでは?」と思ったので、今度お会いしたときにまたお話できたらうれしい。もし作ることになって、わたしにもお手伝いできることがあればしたい。



ドッグランがあって、眺めてもらっているところをしばらく撮り、その後わたしもしばらく眺めていた。「犬とか猫ってどうですか?」という話になり、「すきなんですけど、命って大変じゃないですか、だからこのくらいの距離で見ているのが今はちょうど良いです」と言われ、「全くもって同感です」と言った。

良いところを良いと言ってくれるひとが近くにいるのは良い

渋谷駅ハチ公口付近でもえたさんと合流したときに、マップでカフェの場所や代々木公園の位置を調べたのだが、わたしももえたさんもそれぞれスマホをくるくるくるくる回して、「こっちがあっちだから…」「あっちがこっちだから…」とやる時間があり、「もえたさんもかなりの方向音痴だな?」と予想していた。


「もえたさんが地図見ながらスマホをくるくる回しているのをみて、『あ、方向音痴のひとだ』と思ったんですけど…」
「そうなんです、わたし、方向音痴だし、音痴出身のシンガーソングライターなんですよ」
「え?音痴…音痴ですか?」
「歌うの得意じゃなかったです」


ご実家ではお庭にカラスが来るとお父さんが「もえのお友だちだ!」といじってきて「これでも結構聞きにきてくれるひといるんだよ〜」と返すのがお決まりのネタになっているとのこと。



「先月、下北で、友だち7人か8人くらいと飲んで、カラオケ行ったんですけど、やっぱりみんな意味わかんないくらいうまくて。魅せ方がうまいというか。それに引っ張られて、いつもとは違う感じで歌ったら、友だちに『もえたの良さは不安定さと遅れてくるテンポなんだから!』って言われて」
「良いお友だち!」
「ポッピンダンスやっていたころの癖で、歌も1テンポ遅いというか。でも、それを『良さ』って言ってくれるひとがいるんだ、と思って」


良いお友だち!これに尽きる。良いと思ってくれているところを良いと言ってくれるひとが近くにいるのはめちゃくちゃ良い。もえたさんがそういうひとだから、そういうひとが集まってくるのだろうなと思った。わたしも言葉にできる人間でいたいと思う。それがなかなかどうも難しい。


わたしは、もえたさんも十分魅せ方のうまいひとだと思う。ライブしかり、SNSにあげられているたくさんの動画しかり、今回わたしが撮らせていただいた写真しかり。自分の魅力を惜しみなくどんどん披露して、動画の背景のカラオケボックスの壁紙が派手めであれ地味めであれ、どんどんいろんなひとに見つかって、どんどんバズって、どんどんビッグになっていってほしい。


この撮影が終わったあとも、もえたさんはわたしからしたらかなりハイペースでライブをされていて、力をめきめきつけているのだろうな、みんな古参になるなら今のうちだぞ、と思っている。



水ともえたさん撮りたいな〜と思って水辺に近づいていったら、なんか、近づける場所は永久に澱んでいて、ちょっと望んでいた感じの水辺ではなかった、残念

方向音痴でも2人いたら大丈夫

わたしたちはカフェを出て、代々木公園を撮影しながらぐるっと一周し、ちょうどやっていた北海道フェアみたいなものを覗いた。ものすごいひと・ひと・ひとで、ウーッと尻込みしていたら、もえたさんは「人混みすごいですよね、わたしも苦手なんですよ」と声をかけてくださり(マジ感謝)、比較的空いていたほうのゾーンだけをスススッと通って、メロンを買い、ひとつずつ変わりばんこに、半分ずつ食べた。そして、ちょうどよいタイミングでフィルムを撮り切った。


顔ハメあって「アレ…良いですか?」と聞いたら「全然良いですよ〜!」ってすぐにやってくれた!うれしい!SO CUTE!

メロン食べられます?食べてるところ撮ってもいいですか?よし、買ってきますね!買ってきました!さあさあじゃあ食べてください!のところ

メロン、もえたさんだけ食べているように見えますがわたしもきっちり半分いただきました
おいしかった

代々木公園へやってきた道を記憶を頼りにそのまま帰路につき、途中、「あの看板見ましたよね」「IKEAの前を通った気がする」「ZARAがあった」などと補完し合いながら、迷うことなく渋谷駅へ辿り着くことができた。もう1人、やさしい方向音痴のひとが隣にいれば、道に迷うことなどないのだと思った。この、波動の合わない渋谷という街をもってしても、だ。渋谷をだいたい克服したと言っても過言ではない。


駅前に着いて「ありがとうございました!」と言い合って別れた。もえたさんの背中がちいさくなってゆくのを見つめ、わたしはめちゃくちゃ喉が渇いていて、きもちも高揚していた。ハチ公の前に移動して、ベンチみたいな、ベンチじゃないのか?みたいな、座るスペースに腰掛け、途中で買ったルイボスティーを一気に飲み、しばらくぼんやりしていた。


もえたさんとは、たとえばMVを作ったり、音源を作ったり、曲を作ってfeat.してもらったり、ライブを企画したり、また写真を撮らせてもらったり、おもしろいことが一緒にできたらいいな、と思った。そういう日にできて良かった。あくまで、ごく控えめな願望として、もえたさんもそう思ってくれていたら、すごくうれしい。


もえたを探せ!(難易度★☆☆)

 写真企画 さみしくない点
#4 あなたがビッグになってゆくところを見ていたい

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会ったひと:もえた(シンガーソングライター)

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写真・文:MKRDTSB / ヨシオカミノリ
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