短編小説「天使よ もういちどあなたに振り向いて」

2022/12/12

日記

 お友だちが亡くなった。


初めてのことで、連絡をもらったときはおうちで展示の作業をしたり、必要な連絡をしたりしていたのだけど、動揺してボロボロボロボロ泣いた。少し前に体調を崩されて、入院されて、退院されたところだったのに。「元気になってきてる」って話したばっかりだったのに。なんで、なんで、なんで、なんで。


行きつけの飲み屋で訃報を聞いた常連さんだけで集まると続報をいただいた。ブラジャーだけつけて、部屋着のゆるゆるズボンからチノパンに履き替えて、コートを羽織って帽子をかぶって、きのう出かけてそのままになっていたリュックを背負って家を出た。寝癖なおしてないな、おふろ入ってくるの忘れたな。


道中、彼が教えてくれたタテタカコの曲をきいた。少しだけ泣いた。


飲み屋に行くと常連さんが静かに飲まれていて、彼の思い出話をしながら、今後の予定は決まり次第また連絡するねと言っていただいて、わたしはいまお酒が飲めないのでジャスミン茶一杯だけいただいて、煙草を三本吸わせていただいて、お店を出た。


そういえば、ミスド行こうよって約束してたなあ。彼は甘いものが得意ではないからと乗り気ではなかったので「あなたはポンデリングひとつ食べて飲茶食べていいから、わたしがビュッフェでチャラついたポンデリング爆食いするところ見ててくださいよ」と話したな。結局、彼の体調やわたしの体調のこともあって、行けなかった。


飲み屋を出た帰り道にはミスドがあって、ひとりでミスドに入る。ビュッフェしちゃおっかなと思ったけれど、胸がいっぱいで、チャラついたチョコのポンデリングと、ドーナツポップと、ブレンドを注文する(じゅうぶんな爆食いだな)。


わたし、あなたに会えたから中野のことをすごいすきになったよ。わたし、あなたに会えたからひとりであちこち飲みに行けるようになったよ。ふたりで遅くまで飲んだことも、わたしがお行儀の悪いことをして怒られたことも、パニック発作起こしてるのにお店の外に放り出されてほかのお友だちに泣きながらラインしたことも、おうちに泊めてもらったことも、朝起きたらキッチンでウイスキー飲んでてドン引きしたことも、わたしはぜんぶ覚えてるよ。なにも起きない映画がすきって話をしたことも、是枝監督の「海よりもまだ深く」のすばらしさについて語り合ったことも、「星野源になりたい」って言って「身の程わきまえなよ」って言われたことも、一瞬だけ付き合っていた恋人と別れて「だってきみとあのひとぜんぜん合ってないと思ってたよ!」と言われて「オアシスとかポールマッカートニーとか、ずっとはきけないんだもん」と言って、ハナレグミと折坂悠太を流してくれたことも、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、覚えてるよ。


写真たくさん撮らせてくれてありがとう。日めくりカレンダー置いてくれてありがとう。めくってくれてありがとう。


わたし、あなたにわたしが元気になるところみててほしかったよ。わたし、あなたが元気になるところみていたかったよ。お互い元気になって、ミスドにふたりで来たかったよ。


会いたいよ。もう会えないんだね。しばらくはもう会えないんだ。いまはまだかなしいよ。すごくかなしいよ。すごくすごくかなしいよ。


だから待っててね。次に会えたら絶対にミスドに行こうね。わたしがあなたの分もごちそうするから。